大阪地方裁判所 平成3年(ワ)2756号 判決 1993年2月03日
原告
金田こと金忠男
ほか一名
被告
新栄運輸株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告らに対し、各金三五五万八四五八円及びこれに対する平成元年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを四分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、各自、原告らに対し、各金一五〇〇万円及びこれに対する平成元年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交通事故により死亡した被害者の遺族が加害車両運転者に対し民法七〇九条に基づき、同運転者の使用者兼保有者に対し民法七一五条及び自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)
1 事故の発生
(1) 発生日時 平成元年一〇月二一日午後一時四五分頃
(2) 発生場所 大阪市住之江区南港南一丁目一番一五三号先交差点(以下「本件交差点」という。)
(3) 加害車両 被告渡部裕二(以下「被告渡部」という。)運転の被告新栄運輸株式会社(以下「被告会社」という。)所有の普通貨物自動車(なにわ八八か六七七、以下「被告車」という。)
(4) 被害者 足踏式自転車(以下「被害車」という。)に乗つた亡金剛典(以下「亡剛典」という。)
(5) 事故態様 被告車の右前部付近と被害車の後輪部分が衝突したもの
2 亡剛典の死亡
亡剛典は、右事故により、急性硬膜下血腫、脳挫傷、急性腎不全、急性呼吸不全等の傷害を負い、事故当日から一二日間入院治療を受けたが、同年一一月一日死亡した。
3 被告会社は、被告車を所有し、自己の業務のため被告渡部に被告車を運転させている際に、本件事故が発生した。
4 損害の填補
本件事故による損害に対し、自賠責保険から原告らに一八二四万〇八四〇円が支払われた。
5 相続
原告らは、亡剛典の父母であり、亡剛典の損害賠償請求権につき各二分の一の割合で相続した。
二 (争点)
1 被告らの免責、過失相殺
被告らは、本件事故は、被告渡部が被告車を運転して本件交差点を東から西に向かい、対面矢印信号の青表示に従つて直進しようとしたところ、被告車の直前を亡剛典の乗る被害車が信号を無視して飛び出したために発生したものであるから、被告渡部には過失がなく、被告会社も免責されるべきであると主張し、仮に過失が認められるとしても相当な過失相殺がされるべきであるとする。
2 損害額
第三争点に対する判断
一 免責、過失相殺
1 証拠(乙一)によれば、ひとまず以下の事実が認められる。
(1) 本件交差点付近の道路状況は別紙図面のとおりであり、東西にのびる片側四車線の道路(以下「東西道路」という。)に、北からの道が突き当たる信号により交通整理のなされているT字型交差点で、東西道路は制限速度時速六〇キロメートルのアスフアルト舗装された平坦な道路で、本件事故当時乾燥していた。なお、本件交差点は原動機付自転車は二段階右折となつており、また、本件衝突地点から約三八メートル西方に横断歩道がある。
(2) 本件交差点には、本件事故の痕跡として、別紙図面<4>点(以下の地点表示はいずれも別紙図面のものである。)から<5>点にかけて二三・五メートルにわたり被告車の擦過痕があり、<5>点付近の道路標識が傾き、被告車は本件事故後<5>点に左側を下にして前部を東に向けて転倒していた。
(3) 被告車には、右側前照灯破損、右フロントパネル凹損、フロントガラス右ひび割れ等の損傷が、被害車には後部車輪が右から左に押されるように曲がり、車体泥除け等が曲損していた。
以上の事実が認められる。
2 被告渡部は、実況見分時の指示説明及び本人尋問において「東西道路の第二車線を東から西に向かつて時速八〇キロメートルで走行し、別紙図面<1>点(以下の地点表示はいずれも別紙図面のものである。)で対面信号が青色矢印信号であつたのを確認し、本件交差点にはアクセルを外して進入した、<2>点手前で亡剛典と高橋靖典の二台の自転車が北から南に向かつて走つてきた、<2>点で二四メートル西であるア点に亡剛典、A点の高橋靖典を見た、その直後<3>点から右折を開始した亡剛典らを一〇・五メートル西のイ点に見て危ないと感じてブレーキをかけ、左にハンドルを切つたが、一〇・八メートル進行した<4>点で被告車右前部を亡剛典の乗る被害車後輪部分と衝突し、さらに二三・五メートル進んで<5>点に転倒して停止した。」と供述する。
ところで、証人高橋によれば、同人は、亡剛典の野球友達で、本件事故当時、野球の練習のためグランドに行く途中であつたことが認められるが、同証人は、本件交差点における被害車の走行状況については、<1>東西道路の左端を西から東に高橋の自転車に続いて被害車が進行し、本件交差点の衝突地点で右折したが、右折の時に信号を見たかについては覚えていない、<2>右折時に後方を確認したが、ちよつと見たのか、よく見たのか覚えていない、走りながら確認したか、止まつて確認したかは覚えていない、<3>右折する時には車は見えなかつたと証言し、さらに、一旦右折をしようとして戻つたことはないかとの被告ら代理人の質問に対し、覚えていない、多分なかつたと思うが覚えていないと証言しているところであり、本件交差点での走行について核心部分は曖昧な証言に終始し、信用性に欠けるといわざるを得ない。
右証言に照らすと、むしろ、被告渡部の供述(但し、速度の点は除く。)に信用性が認められ、これに、前記事実を総合すると、亡剛典らは、横断歩道が付近にあるにも係わらず、本件交差点で一旦右折をしようとしたが、また、東西道路左端に戻り、再度右折する際に信号を確認せず、後方車両を確認しないで右折を開始したため、時速約八〇キロメートル(被告車の空走距離、制動距離から速度を推認することは、本件現場にタイヤによるスリツプ痕が残つていないので困難であり、これによつて速度は判断しえないが、被告渡部の供述が、八〇キロメートルで走行していたが本件交差点進入時アクセルから足を外したとするところ、その合理的理由が認められず、また、被告車はハンドルを左に切つてバランスを欠いて衝突後の転倒したことによると高速度で走行していたことが推認され、進入時の速度のままであつたと認めるのが相当である。)で交差点に進入していた被告渡部が前記のとおり亡剛典らが交差点内で必ずしも交通法規に従つた走行が期待できない状況にあつたにも係わらずその動静に注意することなく、そのままの速度で進行したため、衝突したと認めるのが相当であり、被告渡部には制限速度遵守義務、前方注視義務を怠つた過失が認められる。
3 右事故態様に照らすと、過失割合は、被告渡部が五割五分、亡剛典が四割五分とするのが相当である。
二 損害(各費目の括弧内の金額は原告ら主張額)
1 治療費(八七万一〇五〇円) 八七万一〇五〇円
証拠(甲一、ないし三)及び弁論の全趣旨によると、亡剛典の受傷後死亡に至るまでの治療費として自己負担分として八七万一〇五〇円を要したことが認められる。
2 入院雑費(一万五六〇〇円) 一万五六〇〇円
前記のとおり、亡剛典は一二日間入院治療を受けたので、その間の入院雑費は一日当たり一三〇〇円が相当であるから、一万五六〇〇円となる。
3 逸失利益(三七二九万〇九四一円) 二三一二万七四五五円
亡剛典(昭和四九年四月一三日生)は、死亡当時、満一五歳の健康な男子であつたから(原告金忠男)、一八歳に達した時から六七歳まで四九年間にわたつて稼働することが可能であり、また、その間の年間所得は少なくとも一八ないし一九歳の年間平均賃金二〇五万三〇〇〇円(賃金センサス平成元年第一巻第一表男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計、一八ないし一九歳)を下らないことが推認されるから、これを基礎として生活費を右基礎額から五割控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して亡剛典の逸失利益の現価を算出すると、二三一二万七四五五円となる。
(計算式)2,053,000×(1-0.5)×(25.2614-2.7310)=23,127,455
(小数点以下切捨て)
4 慰謝料(二〇〇〇万円) 二〇〇〇万円
亡剛典の年令、家族関係等諸般の事情を総合考慮すると、二〇〇〇万円が相当である。
5 葬儀費(一六五万二二七〇円) 一〇〇万円
原告金忠男及び弁論の全趣旨によれば、亡剛典の葬儀費用として支出した金員の内、本件事故と相当因果関係のある損害は一〇〇万円が相当であり、これを原告らが相続分に応じて負担したことが認められる(なお、甲四、原告金忠男によれば、葬儀費用の全額一六五万二二七〇円は被告会社が一時立替えしたに止まり(原告らに返還義務があることはいうまでもない。)、損害の賠償として弁済したものとは認められない。)
6 小計
右によれば、原告らの弁護士費用を除いた総損害は、四五〇一万四一〇五円となり、過失相殺により四割五分を控除すると二四七五万七七五七円となる。これから前記既払金一八二四万〇八四〇円を控除すると残額は、六五一万六九一七円となり、原告らの固有の及び同人らの亡剛典から相続した損害賠償請求権は、各三二五万八四五八円となる。
7 弁護士費用(請求額三〇〇万円) 各三〇万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は原告両名につき各三〇万円と認めるのが相当である。
五 まとめ
以上によると、原告らの本訴請求は、被告らに対し、各自、各金三五五万八四五八円及びこれらに対する不法行為の日である平成一年一〇月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。
(裁判官 高野裕)
別紙 <省略>